はじめに
今回のテーマは、「「好きを仕事にしよう」論ビジネス」です。
昔から「好きを仕事にしよう」とか、自分の「好き」を大切にしよう、みたいな話はありましたが、インターネットの普及やスマートフォンの誕生あたりから、その傾向がより強くなった気がしています。
ネットの無い環境であれば、基本的にはリアルで会ったり、会場など、そこに時間を作って行く必要がありました。
そのため、「恥ずかしがり屋」な人たちを中心に、そうしたものを回避していたため、あまり表には出てきませんでした。
ところが、ネットが出てくることで、周りにそうしたコンテンツに興味があって、のぞいてみたいと考えた時に、周囲の人に知られずに、触れることができるようになりました。
そして、今回は「「好きを仕事にしよう」論ビジネス」を仕掛ける側の視点から、このビジネスの面白さについて、考えを進めていこうと思います。
「好きを仕事にしよう」論のお誕生日。
そもそもなのですが、「好きを仕事にしよう」という論は、どこからやってきたのでしょうか。
おそらく、この打ち出し方自体もまた、何かを売るための訴求の仕方として、誕生したものと考えられます。
というのも、Aという論理があったら、必ずA’という裏の論理が存在するからです。
言い方を変えれば、「好きを仕事にしよう」という論が、独りでに、ふわっと浮かび上がってきて「こんにちは」することは、ありえないということです。
これは何も「好きを仕事にしよう」に限った話ではありません。
何か物体でも存在でも、必ず、その存在があるからには、その理由も同時に発生します。
ですが、ある存在においては、存在はするものの、その理由は存在しない存在というのもあります。
これについて話を展開してしまうと、話がだいぶ長くなってしまいますので、この点については、また別の機会にお話することに致しましょう。
さて、話は戻りますが、「好きを仕事にしよう」という論には、その裏側の理由、つまり、主にセールス(商売)の文脈で、生み出されたものであるのではないか、という視点でした。
単純な見方ではありますが、ボランティアで「好きを仕事にしよう」論は、生まれてきません。
発生させた本人に、必ずメリットがあるから、それは誕生しうるのです。
芸術家はりんごを描く時に、りんごを見ずにその影を見るようですが、この論も同じようなもので、この論そのものではなく、この論の成立した背景を考えてみると、いろいろと面白いことがわかってきます。
では、どのようなことがわかるのでしょうか。
次の章では、この点について、考えていこうと思います。
「好きを仕事にしよう」論の商売論。
これもまた、シンプルな話になるのですが、「好きを仕事にしよう」論は、商売を考える上で、なかなか緻密にモデルを構築しています。
どういうことかと言うと、「誰のどんな悩み」にアプローチしているのかが明白だからです。
つまり、誰に買ってほしい商品なのかが、極めて明白で、その悩みは深いために、商売として成立するということです。
会社勤めのサラリーマンはもちろんのこと、個人事業主でうまく行っていない人や、会社経営者でも、自身の事業に飽き始めて次に行きたい人など、かなり幅広い層にアプローチできます。
しかも基本的に、「会社に行きたくない」とか、「経営とか面倒で辛い」みたいな話は、極めて根源的で、どんな時代になっても、基本的に「お客さん」がいなくなることはありません。
仮に、同じ人が、「好きを仕事にしよう」論を用いた商品やサービスをリピートしなかったとしても、訴求の仕方によっては、かなり高額商品やサービスを展開できるため、単発でも相当な利益につながると見えます。
また、次から次へと、違うお客さんが入れ替わり立ち替わりやって来やすいテーマでもあるため、なかなかよくできたモデルと言えます。
ただ、この商売がよくできているのは、この部分だけではありません。
もうひとつの視点から、「好きを仕事にしよう」論のビジネスについて、考えを進めていきましょう。
「好きを仕事にしよう」論ビジネス。
「好きを仕事にしよう」論ビジネスの面白いところは、この「好きを仕事にしよう」論を用いた商品やサービスを購入しても、実際には「好きを仕事にできない」点です。
まず無理だと思います。
というのも、「好きを仕事にしよう」論を用いた商品やサービスは、「好きを仕事にしたい」と思っている人たちに「購入してもらうための商品」であって、
決して「好きを仕事にできる」ための商品ではないからです。
簡単に言えば、買っても一時的な高揚効果はあって、何かできそうな感じはするものの、「実際にできるかどうか」は、まったく別の話であるということです。
ある種の栄養ドリンクのようなものですね。ポーションとか。
一般的に、商品やサービスというのは、対価と交換で、何かを獲得したり、何かを解決するものであると考えられがちです。
しかしながら、この「好きを仕事にしよう」論ビジネスは、「できそうな可能性を予感させる」ことが、価値提供なのです。
嫌な言い方をすれば、実際にできてしまったら顧客の声として使えるし、できなくてもその商品のせいにはなりません。
理由は、この商品があくまでも「好きを仕事にしたい」という問題を解決するものではなく、「好きを仕事にしたい」が叶いそうだと感じさせることが、ビジネスだからです。
つまり、「夢」みたいなもので、実際には叶わなかったとしても、何の問題もありません。
結果的に、できた人もできなかった人も、訴求の仕方にもよりますが、それぞれの理由でリピートさせることも可能です。
よって、商品やサービスの設計や、導線の構築方法によっては、それだけで一財産を築き上げることができるくらいのマーケットです。
このような点からも、「好きを仕事にしよう」論ビジネスが、なかなか良くできていて、実に面白い仕組みになっていることがわかります。
おわりに
さて今回は、「「好きを仕事にしよう」論ビジネス」について、お伝えしてきました。
ちょっとしたというか、だいぶ、ブラックジョークみたいになってしまいましたが、真面目な経営者ほど、観察対象としては面白いと思います。
というのも、「解決しないこと」がこのビジネスモデルの根幹だからです。
もちろん「そんなアコギな商売が続くものか!」と憤りを覚える人もいるでしょう。
しかしながら、そんなアコギな商売は、人間のよくある深くて古典的で、時代の変化に影響を受けないタイプの悩みに、がっつりフォーカスをしています。
もちろん、競合他社どころか、専門知識皆無でも、誰でも商品やサービスを作って販売できるので、それこそ有象無象の群衆ができるくらいのマーケットでしょう。
そして、この手の悩みは深いので、それこそ、商品を買っては辞め、買っては辞めと、ダイエット商品のように点々とする、商品ホッパーになりやすいため、
商売の無限ループを構築しやすいと見えます。