はじめに
今回のテーマは、「自社をAに動かすと3000万円、Bへ動かすと5億円」です。
物事の価値や値段についての論考や考察は、これまでも幾度となく進めてきました。
以前行った考察では、自社のサービス単価を引き上げて、それを元に、今までかかっていたコストや時間、労力を引き下げて、空いた時間でさらに、自社の価値を高めるというお話をしました。
なので、今回は、別の角度から、どのようにして自社の価値を引き上げていくのか、という視点について、考えを進めていきたいと思います。
ポジションAなら3000万円、Bなら5億円。
今回は、具体的な想定から、話を進めてみましょう。
例えば、海外経験豊富で、ビジネスにおける折衝を含めた高度な交渉をやってきた人がいるとしましょう。
この方が、今までの経験を生かして、何か事業を行いたいとします。
さて、これをお読みの方がこの人であれば、何を事業として掲げて進めていくでしょうか。
いろいろな方法があると思います。
英語ができるという視点から、単純に英会話を教えることもできますし、海外ビジネスの経験を、国内の事業者に向けて、経営コンサルティングを行うこともできるでしょう。
また、その知見を生かして、自らが事業投資家として活躍することもできると思います。
様々な選択肢があると思いますが、実際には、そこまでの知見も他の人とは違う何かスキルや能力が、自社には無いというおっしゃる経営者もいるかもしれません。
しかしながら、別の視点で見れば、海外におけるビジネス経験者だって、ほかの経験よりは少ないかもしれませんが、それなりに数はいるので競争になりますし、
そもそも、本当に自社にしかできない技術や能力を有している事業者は、ほぼ皆無です。
では、儲かっている企業とそうではない企業に、どのような差が生まれているのでしょうか。
次に、この視点について、考えを進めていこうと思います。
他社にもある能力なのに、頭一つ抜ける企業。
先ほどの章で、そもそも本当に自社にしかできない技術や能力を有している事業者は、ほぼ皆無というお話をお伝えしました。
経営コンサルティングを運営する事業者の代表が書いた本や、経営学的な視点から、理論立てた論文のようなものまで、多種多様な本があるようですが、
その中で、USP(Unique Selling Proposition)というマーケティング用語があり、その周辺の概念を扱う本も売れているようです。
しかしながら、世間一般におけるUSPは、少し勘違いをされているようにも見えます。
というのも、本来、USPというのは、自らが単独で唯一無二の存在になるということではなく、ポジションのとり方が唯一無二ということだからです。
つまり、「今までそういう考え方はなかったけど、確かにそのようなポジションのとり方は、なかなか面白いですね」というのが、本来のあるべきマーケティングの姿であるようにも見えます。
また、専門家の視点とは少し異なりますが、マーケティングという概念そのものも同様で、
「自らがそうなる」のではなく、「そのような結果を導くために、自社をどう動かすか」というところが、そもそもの発端であるようにも感じます。
なぜかというと、マーケティングの大もとの考え方は、戦略論。つまり、戦争論や戦史、戦争の作戦策定などの、軍略策定に端を発していると見えるからです。
しかしながら、これらの大もとの文脈を忘れて、経済や資本主義の文脈に応用することで、マーケティングという一見するとかっこいい感じに見せて、事の本質を見失っているようにも思えます。
さて、話はもとに戻りますが、これらのようなことからもわかる通り、他社もできる自社の能力や技術などというのは、当たり前であって、
唯一無二を目指すべきは、技術や能力ではなく、目に見えないポジション取りの側であると言えます。
目に見えない無形資産の価値。
「かんじんなことは、目に見えないんだよ」と、かの有名な文学作品でも載っていましたが、これはビジネスの文脈においてもまったく同じで、
本当に大切な自社の商品やサービスを伝えるための言葉や会話、伝わる相手を探しに行く旅は、目では見えないし、数値化も数量化もできないと言えます。
だからこそ、自社の発想を他社が真似たところで、同じような結果は得られず、自社は順調に経営をしていくことができると言えます。
それだけ、目に見えない無形資産は大切で、とりわけ、こうした発想そのものは、視認できない企業の生命線です。
そのため、他社にどのようにすれば真似されないかに意識を向けるよりも、
自社の戦略として、どこに自社を持っていけば、一番高く価値を感じてもらえるかを考えていく必要があると言えます。
端的に言えば、自社の今までやってきたこととはまったく違っていたとしても、
大きな資金が動いている、あるいは、これから動きそうなところにポジションを置けるかどうか、を試みるということです。
仮説の段階や仮定の話として、考えること自体は無料です。
そして、それらをはじき出す際に、「これはさすがに、ありえないだろう」とか「これは今までにやったことがないから無理そうだ」とは思わないほうが良いです。
理由は、その「無理そう」とか「ありえない」という認識そのものが、「今までの事業の文脈の中で」考えられた思考のカケラだからです。
むしろ、自社が「無理そう」とか「ありえない」と思っているということは、少なくとも、同じ分野の人間や、近接分野の事業者も同じようなことを考えている可能性があります。
ということは、仮に自社が、その「無理そう」とか「ありえない」と思いがちな方向に、労力や資金を少しでも向けることができれば、その時点で、他社に先んじて、一歩を踏み出すことに成功できるということにもなります。
また、自社がうまくいったとしても、追随してくる他社は、そう多くはありません。
なぜなら、それほど柔軟な発想と行動ができるのであれば、その企業もまた、すでに別の部分で、他社に先んじて一歩を踏み出せるような企業だからです。
業界や業種、職種をどこまで細かく分けるかにもよりますが、どのみち、自社の一社で、その業界や業種、職種のすべての仕事や事業を引き受けることはできません。
自社は、(できるだけ利益の大きい)そのどれかの事業を引き受けることができれば、それで自社は回していくことが可能です。
こうした視点からも、目に見えない無形資産、とりわけ、形として上がってきにくい「思考の部分での差」が、明暗を分けると言えます。
おわりに
今回は、「自社をAに動かすと3000万円、Bへ動かすと5億円」というテーマでお届けしました。
一見すると、単純な話ではありますが、大きな水脈の無いところから、大量の水を汲み取ることはできません。
小さい川で、小さな水を取り合うよりも、大きな川で、誰が来ても余るくらいの流水から水を汲み上げ、世界に行き渡らせていきましょう。