はじめに

今回は、「経営者の好きな占いは、言葉の間違った解釈から始まる」というテーマで、お話をしていきます。

先日、テニュア(終身在職権)にまつわる論考を目にしたのがきっかけで、今回のテーマにしました。

日本でも、「テニュアトラック制」という若手研究者の育成制度を、国立研究開発法人である科学技術振興機構が行っていますが、これも安定した研究を若手研究者に行ってもらうための、仕組みの一つとも言えます。

そうでないと、数ヶ月かそこらで成果が出るような研究しかできなくなり、日本の研究土壌そのものが劣化してしまうので、喫緊(きっきん)の課題とも言えるかもしれません。

そこで、この記事では、テニュア(終身在職権)というところをきっかけにして、経営者の好きな占いは、言葉の間違った解釈から始まる」について、考察を加えていこうと思います。

テニュア(終身在職権)という宿命をまっとうする。

日本の正社員もかつては、ある種のテニュア(終身在職権)を持っていました。

左遷や窓際族になることはあっても、実際にクビになることは、そうそう起こり得ないことだったからです。

そして、このことで、所属する社員もまた、安心して仕事に打ち込むことができたと言えます。

先々の生活に不安がある中で、「仕事を一生懸命やれよ」と発破をかけたところで、得られる成果は、程度の知れたものだったからです。

ですが、大学教授などの立場あるテニュア(終身在職権を有する人)が、日本ではあまり機能していないことも事実です。

なぜならば、大学では終身在職権を得ていたとしても、不用意な発言ひとつで、左遷されたり、終身在職権であったはずの権利も、失われてしまう可能性があるからです。

これは、経営者にも同じことが言えて、立場ある人が本来であればしっかりと発言をし、皆に示しをつける必要があるところを、それをせずに、傍観している経営者も少なくありません。

「ティール組織」という言葉が、近年では流行っていますが、それは経営者が責任をまっとうしなくても良いということではありません。

むしろ、その反対で、「ティール組織」の仕組みで、会社を運営し、個々に強い力と権限を与えるからこそ、それを指揮する経営者には、更なる実力と思考、それに伴う責任が生じると言えます。

定められた役割を、偶然や運命としてとらえない。

以前、おみくじについてのお話をしたことがありましたが、

おみくじの吉凶よりも、おみくじに書かれているそれぞれの細かな教訓から、どのようなことを感じとることができるかで、その経営者の実力が左右される。

というお話をしました。

経営者は、自らがまっとうすべき「定め」の中に、運や偶然性があると知りながら、それでも、どうすればまっとうできるのかを考えているということです。

当たり前ですが、「定め」を運任せにしていません。

これは、経営者に占いの好きな方が多いことにも、関連していると思います。

というのも、経営者が、占いという偶然性の中に、自分自身の必然性を見出しているからです。

なので、おそらく占い師が「何を言った」とか、「言ったことが当たったはずれた」ということは気にしていない方が多いと見えます。

それよりも、偶然そこで占ってもらった、その時の言葉を胸に、その瞬間から、その経営者の思考はスタートしていると言えます。

これは、占いという世界観が理解できていないと、楽しむことができない境地ですし、同時に、偶然性という概念に対しても、深い理解が必要です。

理由は、今までも繰り返しお伝えしてきた通り、言葉には「意味の揺らぎ」が存在しているからです。

言葉の「意味の揺らぎ」を用いた占いの世界。

占いは、ある意味で、対面で商談をする経営者とも似ています。

というのも、結局のところ、人との対話とは、言葉の「意味の揺らぎ」をすり合わせるゲームのようなものでしかないからです。

よって、合わせようとすることもできるし、ズラそうとすることもできます。

そして、相手の知らない解釈でもって、相手を煙に巻くこともできますし、一瞬のうちに煙に巻かれた状態を解くこともできます。

ちょっとしたマジシャンみたいですね。

でも、どう見てもタネがわからないスーパーマジシャンよりも、黄色いジャッケットを着た、明らかにタネも仕掛けも見え見えなマジシャンに、心惹かれる時があります。

理由は、「滑稽さ」というものに対する深い理解が、そこには、にじみ出ていると言えるからです。

相手の知らない「解釈」を用いることと、相手の知らない「用語」を用いるのは違う。

ただ、いま言ってきたようなことを、違う解釈を加える人もいます。

どういうことかというと、相手の知らない難しい「用語」で、煙に巻こうとする人がいるということです。

でも、学者でもなければ専門家でもない人が、専門用語を用いて何かを言うって、少し空々しい気もしますし、何か違う気もしています。

この記事で、冒頭にテニュアの話をしましたが、それは「テニュアという言葉を知っている私すごいでしょ?」ということが言いたいわけではありません。

だからこそ、「テニュア(終身在職権)」と記述しましたし、この言葉を用いたのは、いわゆる日本の正社員雇用(終身雇用)という視点からは、引き離したかったからです。

単に、定年までの終身雇用が保障されているという話がしたいのではなく、責任ある立場を司る大学教授などのテニュアと、これを読んで下さっている経営者の立ち位置を投影させてほしかった、という狙いがありました。

タイトルで、「ノブレス・オブリージュ」という言葉を用いましたが、それは日本語に、これに該当する言葉や概念が存在しないからです。

もともとこの言葉は、フランスのことわざで「貴族たるもの、身分にふさわしい振る舞いをしなければならぬ」という意味合いのようですが、

日本では、それが転じて、「立場あるもの、相応の振る舞いをせんとする」という意味合いであると、個人的には考えています。

もちろん、先ほど記した占いと同様に、この「立場あるもの」という概念の解釈も、経営者それぞれだと思います。

「経営者など1つの役割でしかない」という解釈でも、「責任持って、社員を導かなければならない」という解釈でも、どのようにとらえても良いと言えます。

理由は、どのような解釈をしたにせよ、結局のところ、多くの善良な経営者の行き着く先は、だいたい決まっているからです。

おわりに

今回は、「経営者の好きな占いは、言葉の間違った解釈から始まる」というテーマで、考察をしてきました。

占いは、言葉に幅と奥行きがあるからこそ、成立する職業であって、それは経営者も同じであるように感じました。

どのような言葉を用いて、どのような幅と奥行きを相手に見せることができるか。

そこが、経営者の腕の見せ所であるようにも思います。