この記事では、経営者は、なぜ愛読書に歴史物を挙げるのかについて、記していきます。

正直なところ、長期的にうまくいっている方で、本を読んでいない人はほとんどいません。

もちろん、人により、熟読する人、項目だけ目を通して、興味にあるところだけ目を通す人 など、いろいろなタイプが存在します。

ただ、その中で、歴史物、特に歴史小説を上げる方が多いように感じます。

どのような点に惹かれているのか、あるいは、どのような点を参考としているのか、といっ たところについても、触れていくことができればと考えています。

歴史に限らず、自らの事業と関係のないところから、応用するとなると、全く分野が違うの で、そのまま持ってきてもうまくいかないことも多いです。

ところが、雑誌や記事、書籍のインタビューなどで、歴史関連の書籍を紹介している人たち は、少なからず、その書籍なり、出来事に影響を受けていて、それを本業に生かしていると見えます。

なので、こういった書籍やインタビューなどでは出てこない部分を、推察しながらも、応用できている人たちの視点について、考えていきます。

経営者と歴史小説

経営者の方の中には、歴史小説を挙げる方も多いです。

歴史小説は、フィクションでもありますので、一部事実と異なる点もあります。

しかしながら、ストーリーを組み立てて、わかりやすい点から、経営者の方がカタルシスを得やすい部分もあります。

歴史小説の主人公に、自らを投影させて、主人公の思考や分析を追体験している方もいらっしゃると思います。

ですが、追体験をしただけでは、「あぁ、楽しかった」で終わってしまいます。

もちろん、読書を何かに生かそうとしている人ばかりではありませんので、それで良いと思います。

けれども、その歴史小説にのめり込めばのめり込むほど、ふとした部分で、その時の主人公の思考や分析の追体験が蘇ってきて、それを活かすことができます。

ただし、そのままでは、自らの事業に活かすことはできません。

なので、思考の中で、ある作業が必要になってきます。

歴史の事実や出来事を、自らの事業に応用するには

それは何かというと、「出来事の抽象化」です。

例えば、戦争中の指揮官の文面であれば、それそのものは、直接役に立つことはありません。

経営者の方は、自衛官や軍人ではないでしょうから、同じ場面に遭遇することは、まずありえないでしょう。

でも、もしそうならば、どうして歴史小説が、経営者の間で、それほど流行するのでしょうか。

それは、戦争中の指揮官の指揮であれば、その場面での判断の経緯や、背景、どのようにしてその判断に至ったのか、という理由など、文脈の流れそのものを見ているからです。

もちろん、指揮の内容や言葉なども見ていると思いますが、生かしているのは、そこではなく、文脈全体を抽象化して、それを自らの事業に落とし込んでいくとどうなるか、という思考をしているのです。

だから、経営者の間で、歴史小説が流行るとも言えます。

そして、歴史小説には、いくつかの山場があることが多いです。

戦争の激しい戦闘であったり、勝負の分かれ目となるような、切迫したような場面です。

こうした場面では、判断を間違うと、そのまま敗北、もしくは自らの命も危ない状況です。

そのような状況の中で、描かれている主人公や周囲の登場人物が、どのような出来事(情報) に基づいて、どのように判断しているのかを見ているのです。

経営者は、歴史から何を学んでいるのか

このような視点で見ていくと、経営者が歴史から何を学んでいるかが、わかると思います。

特に、そのままでは自らの事業に活かすことはできませんから、意識的にやっているかどうかにかかわらず、出来事や判断の背景となる部分を抽象化して、そこから、自らの事業に応用していると見えます。

なので、経営者は、歴史から出来事や、主人公の印象的な言葉というよりも、一連の流れや、その背景について学んでいると言えます。

ところで、経営者は、後ろに誰もいないという点で、会社に属している他の人たちとは、全く別の立ち位置にいます。

他の会社のメンバーであれば、自らが失敗をしても、責任をとってくれる上席者や管理者がいます。

けれども、経営者は、最高責任者。代表取締役です。 当たり前のことですが、あえて記しておくと、後ろには誰もいません。 その会社における最後の番人なのです。

そして、歴史小説に描かれている人物たちもまた、立場は違えど、戦場において、最後の番人の立場であった人が多いです。

つまり、判断を間違えば、自分が属している軍は敗北する。そして、自らの命も無い。という立場です。

現代といえども、小さい会社の経営者であれば、会社の負債に関しては、個人保証などを求 められている状況の方もいらっしゃるかと思います。

そういった状況におかれていれば、事業に失敗した時に、最悪の場合、命を奪われることは 回避できるとしても、わずかな資金を元手に、自らの生活を復興しなければなりません。

家族がいる方であれば、その困難さは並大抵のものではありません。

その点で、困難さの観点から言えば、命の部分に若干の差はあるものの、失敗したときの状況はさほど変わりがないと言えます。

だからこそ、歴史小説に登場する人物に、自らを投影させて、状況を追体験することでカタルシスを得たり、主人公が直面している困難に、共感を得たりしていると言えます。

ただし、その一方で、主人公の判断の過程や、政策決定の成立過程を俯瞰して、見ているとも言えます。

その視点が無ければ、自らの事業に、歴史上の出来事を応用することはできないからです。

経営者は、共感する観点がありつつも、冷静に状況を俯瞰して、過程や背景を見つめる視点を持って、読んでいるとも見えます。

最初から当時の人物が書いた書物を読む人がいる

さて、ここまでは、歴史小説と経営者の関係を見てきました。

けれども、経営者の中には、歴史小説から研究書や、当時の人物が書いた書籍を読んでいる方もいらっしゃいます。

ここまでくると、歴史研究者の視点とも言えます。

つまり、登場人物に共感するというよりは、事実をなるべく客観的に見つめる視点がメインであるということです。

そして、ここから出来事を抽象化していくことで、自らの事業に応用していると言えます。

しかしながら、歴史研究において、どうしても当時の史料から研究を進めていく関係で、常に未来の研究に覆される可能性を残しています。

時々、新史料が発見されて、歴史研究の答えの範囲が変わるのは、このためです。

そのため、常に変化する可能性を残しています。

ただ、経営者が自らの経営に生かしている部分は、そうした史実に左右されない根本的な、 その考えに至った背景や、そう考えた理由などですから、変化の範囲は少ないと見えます。

まとめ

さて、これまで、経営者が歴史小説など、歴史物に惹かれる理由について、触れてきました。

その中で、経営者は、歴史小説などの出来事よりも、その意思決定に至った過程や理由など を抽象化して、それを自らの事業に生かしていることを記しました。

そうでなければ、自らの事業とは全く異なる歴史上の出来事を、自らの文脈に落とし込むことはできないからです。

これは、歴史に限らず、自らの事業とは関係のない文脈を参考にする時に、用いられていると推察できます。

そして、人によっては、歴史小説ではなく、当時の人物が書いた書物や研究者が書いた研究を直接読む方もいることについて、お伝え致しました。

普段から、抽象的に考えるということに慣れているためか、最初から、どの部分がより上位概念であるかを、見極める方も多くいらっしゃいます。

それだけ、知見も深く、視点も高いため、いきなり当時の人物が書いた書物や、研究者が書いた物であっても、理解することができると言えます。