社内の人材を育てていくことは企業にとって非常に重要な課題です。しかし、社員を成長させることは簡単なことではなく、人材育成について頭を抱える会社は少なくありません。
社員を育成する方法は色々ありますが、そのうちの1つがフィードバックと呼ばれるものです。フィードバックという言葉を聞いたことがある方は多いと思います。フィードバックは相手に対して第三者の目線から良い点や悪い点を伝え、行動の改善を促すものです。企業では上司が部下を育てる際によく使われます。
ただし、フィードバックはただ取り入れれば良いというものではありません。自分の日頃の行動について他人から意見されるのは耳が痛いもの。それだけに伝え方が上手くなければ、相手は「嫌なことを言われた」という感想だけが残ってしまうかもしれません。
そこで今回は企業がフィードバックを取り入れるべき理由や、フィードバックを効果的に活用するためのポイントをご紹介していきます。
フィードバックを通して社員が成長すれば組織の改善にも繋がるので、人材育成に悩んでいる方はぜひ参考にしてください。
人材育成や組織改善に役立つフィードバックとは
フィードバックとは日々の行動について第三者目線での評価を伝え、さらに良くない点があればその原因や改善策を提案するものです。自分の行動を振り返ってもらうことで、仕事への取り組み方を改善させるのがフィードバックの狙いです。
フィードバックをすれば個々の人材が成長するのはもちろんのこと、社員がより効率的に働くようになることで、組織の改善にも繋がります。
企業がフィードバックを取り入れるべき理由4つ
人材育成や組織改善の方法は他にもあるだけに、なぜ敢えてフィードバックが必要なのか疑問に思うかもしれません。しかし、フィードバックは企業が抱える人材育成に関する問題を解決するのにあらゆる面で役立つからこそ、人材管理について悩みがある会社は取り入れるべきなのです。
そこでまずは企業がフィードバックを取り入れるべき具体的な理由についてまとめていきます。
- 一人一人に向き合う余裕がなくなっている
かつての企業は人材が豊富で、一人が見る部下の数は限られていました。しかし、現在は効率的な経営をするために社員の数を減らす会社が増えており、それによって管理職の数が減り、一人が見る部下の数は多くなっています。
さらに、最近の管理職はただ人材管理をすれば良いだけでなく、自身の仕事も抱えているケースが多く、昔に比べると多忙になっています。
こうした背景から、上司が部下一人一人に向き合う余裕がなくなっており、部下が上司の助言を受けて成長する機会が少なくなっています。そこで、フィードバックを取り入ることで、上司が部下に向き合う時間を作るべきなのです。
- ハラスメント問題で指導の仕方が難しくなっている
最近、職場におけるハラスメントが注目されています。部下に指導するときにキツい言い方をしたり、大変な仕事を無理にやらせたりするとパラーハラスメントとみなされ、問題になってしまいます。こうした指導方法はこれまで普通に行われていたとしても、今は時代に合わせて違った育成方法をしなくてはいけません。
フィードバックは部下の成長のために評価をしたり、改善案を提示したりするもので、決してハラスメントにはならないため、今の時代にはとても向いている指導方法です。
- 早くから成功を目指す人材の成長を促すため
ひと昔前までは勤続年数が長いほど上の役職につけて、給料の額も上がるのが一般的でした。しかし、現在は若い人材でも早くに昇進し、重要なポジションにつくことも珍しくありません。
こうした傾向から、若い世代で早くから成功したい、早く昇進したいと思う人が増えています。企業にこういう人材がいる場合、適切な指導をし、成長させることができれば、会社にとって重要な人材になるはずです。
フィードバックは一人一人に評価やアドバイスをするものなので、やる気のある人材を育成するのにも役立ちます。
- 人材が多様化し、人材管理が難しくなっている
女性の社会進出が進み、外国人労働者や非正規雇用者が増えていることから、社内に様々な種類の人材がいる企業が増えています。人によって適切な指導方法は異なるため、多種多様な人材がいる会社では全員に対して同じように指導すると、やり方が合わない人も出てくるはずです。
そこで、フィードバックを取り入れ、個人個人に合った適切な指導をするようになれば、それぞれの成長を促すことができるようになります。
企業がフィードバックを取り入れるメリット6つ
フィードバックは企業が抱える人材育成に関する問題を解決するだけでなく、さらに社員や企業に対して嬉しいメリットをもたらしてくれます。
そこで次に、企業がフィードバックを取り入れるメリットをご紹介していきます。
- 客観的な評価を知ることができる
フィードバックのメリットの1つは客観的な評価を知れることです。自分がどのように行動しているか、もっと成長するにはどうしたら良いかは自分では意外に気付きにくいもの。そのため、自分一人の力だけで成長していくには限界があります。
そこで、フィードバックを通して上司から評価を受けると、社員はより成長するためのヒントを知れるようになります。
- 行動を改善することで成長に繋がる
フィードバックから自分の問題点と改善するためにすべきことが分かると、社員の行動の仕方は変わるはずです。すると、以前に比べて効率よく仕事をしたり、成果を出せるようになったりと良い変化が起こり始めます。
- 職場に対する信頼感が増す
フィードバックを受けたことで自分が成長するのを実感すると、社員は「この職場は自分を成長させてくれる良い職場だ」と認識するようになります。すると、職場に対する信頼感が増して、長く勤めたいと思うようになります。
反対に、向上心がある社員がいくら仕事をしても成長している実感が得られないと、「もっと自分を生かすことができる職場で働きたい」と考え、最悪の場合は離職する可能性があります。すると、貴重な人材が離れて、企業にとっても痛手になります。
このように、フィードバックは社員の職場に対する満足度を上げ、さらに企業にとっては離職率が下がるというメリットがあります。
- 前向きに仕事に取り組むようになる
フィードバックを受けて行動が改善すると、以前に比べて成果が出るようになるのを実感するはずです。すると、社員は前向きに仕事に取り組むようになります。
仕事に前向きに取り組むようになればタスクをテキパキとこなすため、さらに成果が出るようになり、良い循環を生み出します。
- 意見を言い合える風土になる
同じ職場の上司と部下という関係性でも、あまりコミュニケーションを取らないせいで、お互いに「あの人は自分のことを分かってくれない」と反抗的に思うということは良くあります。
しかし、フィードバックを社内に取り入れると、上司は部下に対して率直な意見を伝えるようになり、部下は分からないことがあるときやアドバイスが欲しいときに気軽に上司に話すようになります。
このように意見をお互いに言い合える風土になるのがフィードバックの魅力の1つです。
- 業績が上がる
フィードバックによって社員の働き方が改善すると、組織も改善され、プロジェクトが成功したり、業績が上がったりして企業全体に良い影響をもたらします。
フィードバックを社員に浸透させるのは大変かもしれません。しかし、フィードバックによって得られるメリットは各個人だけでなく企業にもあるので、人材育成や組織の成長を目指すのであればフィードバックを取り入れるべきと言えます。
フィードバックをするタイミング3つ
フィードバックは伝えるタイミングによって、より効果を高めることができます。そこでフィードバックをする理想的なタイミングについてもまとめていきます。
- プロジェクトが終わったとき
まず1つはプロジェクトや施策が終わったときです。プロジェクトが進行しているときはある目標に向かって行動しているときなので、どんな行動が課題なのかが明確になりやすく、効果的なフィードバックができます。
- 行動の改善がすぐに必要とされるとき
数ヶ月、数年といった長期間のプロジェクトが進行しているときは、行動の改善が必要であればその都度フィードバックをするが理想的です。プロジェクトが全てが終わったタイミングで過去のフィードバックを伝えてもあまり意味がありません。
そこで、長期間の施策に取り組んでいる間は上司は部下の行動を特によく観察しておく必要があります。
- 人事評価
人事評価の時期もフィードバックをする適切なタイミングの1つです。人事評価は昇給や昇進がかかった大事なものなので、ここでフィードバックをすることによって部下も素直に受け入れ、今後に生かそうとするはずです。
フィードバックに欠かせない4ステップ
フィードバックを効果あるものにするためには、評価の流れを押さえる必要があります。これができていなければ、相手にとって意味のあるフィードバックにはなりません。
これから必要な4つのステップをご紹介するので、フィードバックの際には必ず意識しましょう。
- 状況を確認する
フィードバックをする際にはまず状況の確認が欠かせません。部下がどのように行動しているのか、どんな成績だったかといったことを改めて確認しましょう。また、自分で振り返るだけでなく、一緒にプロジェクトに関わっていた人や同僚から仕事ぶりについて聞けば、より幅広い情報を得ることができます。
集めた情報から、総合的に部下の評価をしましょう。
- 改善が必要な点を伝える
フィードバックの際には仕事の結果や評価だけでなく、これから改善が必要な点も伝えましょう。部下にとって耳の痛いことですし、伝える方も気がひけるかもしれません。しかし、成長していくためには改善点を知ることが不可欠で、むしろ課題を伝えることは部下のためになることなので、はっきり伝えるようにしましょう。
もちろん、問題を伝える際は相手が傷つくような言い方にならないよう、工夫が必要です。
- 改善のための具体的な提案をする
フィードバックは改善点を伝えたらそれで終わりではありません。必ず、その問題を解決するためにどのように行動すれば良いかを伝えましょう。
こちらから提案するのはもちろんのこと、部下からもアイデアがあるようならそれを聞きながら一緒に改善案を決めても良いでしょう。
- フィードバック後の行動を観察する
評価や改善案を伝えればフィードバックは一旦は終わりですが、その後の部下の様子を観察することも忘れないようにしましょう。
もし、行動が変わっていなければフィードバックで伝えた改善案を改めて伝える必要があります。また、行動を変えても変化がない様子なら、すぐに別の提案をすることが求められます。
フィードバックの2つの種類
フィードバックには2つの種類があります。部下にフィードバックをするときには上手くこの2つの種類を使い分けなくてはいけません。
そこで、フィードバックの2つの種類と、それぞれの違いについてご説明していきます。
- ボジティブフィードバック
まず、ポジティブフィードバックとは前向きな言葉で部下の仕事を評価することです。上手くできたことを褒めるのはもちろんのこと、改善すべきことや課題についても相手を責めるような言い方はせず、「これを改善したらもっと良くなる」というように、ポジティブに受け取れるような表現を使って伝えます。
ポジティブフィードバックをすると、部下は反省しつつ自己肯定感を高めることができるため、前向きに成長することができます。
- ネガティブフィードバック
ネガティブフィードバックは否定的な言葉で評価を伝えることです。一見、好ましくないように思えるかもしれませんが、人によってはこちらの方が刺激があり、「もっと頑張ろう」とやる気に繋がる場合があります。
ただし、ネガティブフィードバックは相手のモチベーションを削いだり、指導する側に対して反感を持ったりと逆効果になることもあります。
そのため、部下へのフィードバックは基本的にはポジティブフィードバックを用いましょう。
フィードバックの効果を高めるコツ8つ
フィードバックの効果をより高めるためにはただ手順に沿って行うだけでなく、細かい部分に配慮する必要があります。
最後にフィードバックをもっと活用するためのコツをご紹介していきます。
- フィードバックの目標を把握する
フィードバックをする側にまず求められるのは目標を把握することです。次のプロジェクトの成功に貢献できる人材にすること、すぐに行動を改善してもらうことなど、目標はそれぞれ異なるはずです。
目標が定まっていない中でフィードバックをしても、部下は何のために指導されたのかが分からず、効果が薄れてしまうので、必ず目標や目的を設定し、フィードバックの際にはそれを部下にも共有しましょう。
- 論理的に伝える
フィードバックでは論理的に伝えることが非常に重要です。ただ思ったことを言うだけでは相手に意図していることが伝わりません。
そこで、先ほどご紹介したようにまずは全体的な評価をし、そこから導き出される課題を伝え、改善案も提案するという流れを必ず守り、相手にスムーズに意図することが伝わるようにしましょう。
- 具体的な改善案を必ず伝える
誰でも自分の問題点や課題を他人から指摘されると嫌な気分がするものです。そこで、フィードバックではただ課題を伝えるだけでなく、それを解決するための具体的な行動案を必ず伝えるようにしましょう。
改善案を伝えれば、部下はこれからどのように行動していけば良いかが分かるので指摘を素直に受け止めますし、「この人は自分のことをちゃんと考えてくれる」とより信頼してもらえるきっかけにもなるでしょう。
- 部下との信頼関係を構築する
フィードバックをする際に欠かせないのが相手との信頼関係を作っておくことです。十分に信頼関係が作れていないのにあれこれ指摘してしまうと、聞く耳を持ってもらえない可能性があります。
そこで、フィードバックのときだけでなく、普段から部下のことを気にかけてコミュニケーションを取り、信用を築いておきましょう。
- タイムリーに伝える
フィードバックは必要なタイミングですぐに伝えることがポイントです。例えばプロジェクト後は部下も何かしらの反省をしているはずなので、終わってすぐのタイミングでフィードバックをすることで、成長を促すことができます。
- 人格を傷つけることは言わない
相手に問題点を指摘するときに気をつけたいのが人格を傷つけることは言わないことです。フィードバックで指摘することはあくまでその人がした行動であり、内面的なことではありません。
もし、人格を傷つけるようなことを言えば、こちらの評価を素直に受け入れないだけでなく、ハラスメント問題になってしまう可能性もあります。
フィードバックをするときには使う言葉に十分に気をつけましょう。
- 他の社員と比較しない
部下を評価するときにやってはいけないことの1つが他の社員と比較することです。一人一人得意なことや苦手なことは違うため、評価の際に他人と比べるのは間違っています。能力が違う人と比べられると、部下は自信を失い、今後の仕事ぶりにも影響が出るでしょう。
そこで、相手の行動だけに焦点を当てて評価することを意識しましょう。
- リラックスできる環境を用意する
上司から自分の評価を聞くときには誰でも緊張するものです。そこで、力を抜いて話を聞けるような環境を用意しましょう。
リラックスすれば話をスムーズに受け入れられるようになるため、部下もフィードバックをより生かせるようになるはずです。
まとめ
フィードバックは相手に評価や課題を伝え、さらに、今後の対策を提案するものです。上司が部下一人一人に向き合ってフィードバックをすることで人材を育成することができます。また、社員の能力が上がることによって組織改善や業績アップといったメリットも得られます。
ただし、他人から評価を受けたり、自分の行動を振り返ったりするのは誰でも抵抗があるものです。そのため、フィードバックの伝え方によっては自信を無くしてしまうなどネガティブな影響が出るリスクがあります。
そこで、フィードバックは前向きな表現を使いながら行うようにし、「次からはもっと頑張ろう」とポジティブに受け止めてもらえるようにしましょう。