はじめに

今回は、「商売の本質とは何か」というテーマでお届けして参ります。

普段、お仕事をさせて頂いていて、「どうして特定の業界や分野だけではなく、様々な業種や業態の企業に精通されているのですか」と聞いて頂くことがあります。

その際に、様々な理由を挙げながら、お話させて頂くのですが、「どの分野でどの業界の」というのは、実はあまり関係がありません。

もちろん、その業界でしか通用しない専門用語や慣習、商売の基本などは存在していますが、

それについては、その道のプロフェッショナルである、顧客になって頂いた企業の経営者に伺うので、まったくと言っていいほど、問題は生じません。

では、なぜその道のプロである経営者が、経営のコンサルティングを受けるのか。

まずは、その点についてから、見ていきたいと思います。

一流のゴルファーが、自分より下手な人をコーチにつける理由

経営者の中には、ゴルフが好きな経営者も多いです。

もちろん、それが接待であったり、社交界やサロンの役割を果たしていることもしばしばです。

そんな経営者が好きなゴルフですが、テレビ放送されている大会に出場しているようなプロゴルファーの中には、自分よりも実績がなく、現役時代もパッとしなかったような人を、コーチにつけていることもしばしばです。

なぜなのでしょうか。

これは、コーチという職業が教えるのがプロであって、教えるプロゴルファーより、実績や実力があるかどうかは、まったく別の問題だからです。

つまり、教えたり、アドバイスをしたりして、その競技者のパフォーマンスを最大限に引き出すことができれば、コーチ自身に実力があるとか実績があるとかは、関係がないということです。

これは、経営においても、まったく同じことが言えて、その業界や業種、職種の実務的な内容に精通していることが、必ずしも経営が上手くいくための必要条件ではありません。

そして、冒頭に挙げたプロゴルファーの例と同じように、そのプロ自身は、自分自身を見ることができないので、

仮に、コーチの競技実績が、自分より悪かったとしても、コーチという他者視点を通して、自分自身を見つめていると言えます。

では、なぜ成果を出している経営者ほど、経営相談を受けるのでしょうか。

次に、この点について、考察を加えていきます。

成果を出している経営者ほど、経営相談を受ける理由

結論から考えてみると、成果を出している経営者ほど、経営相談を受けているのは、経営者自らの思考を言語化するため、と言えます。

どういうことかと言うと、経営者は日々、自らの会社について思考を巡らせていますが、どうしても、自らの企業を起点として、あらゆる物事を見てしまいがちです。

これは、何も悪いことではなく、むしろ、普段から真摯で真面目に、事業を行っている証拠でもあります。

ですが、自社を他者視点でとらえることは、そう簡単ではなく、自社という立ち位置に、無意識のうちに引っ張られてしまう恐れがあります。

このようにして、具体的に言葉にして考えているかどうかは別にして、感覚的にでも気づいているからこそ、

経営相談という所作でもって、自らの会社を、別の視点から照らして出していると言えます。

では、なぜ経営相談が、その経営者の別の視点を照らし出し、いわば壁打ちの存在として、機能することができていると言えるのか。

最後に、この点について考察を加えていき、この記事を終えていきたいと思います。

経営相談が、経営者とその企業を照らし出せる条件

経営コンサルティングという職種は、世間で至るところにあふれかえっていますが、その経営相談が、相談する経営者と企業にとって、役割を果たすためには、いくつか条件があります。

ただ、これを一言でまとめると、「相談される経営者と同じ視点で、当該事象を見ない」ということが言えます。

相談というと、なにか「寄り添う」とか「理解する」みたいな話になりがちですが、こと経営相談に関して言えば、寄り添っている場合ではありません。

経営者が、幹部や社員に対して、話を聞いたり、「大変だったね」と声をかけることは必要だと思いますが、経営相談で、経営者に向けてすることではありません。

理由は、経営相談は、相談を受けた人間が、相手企業の問題を解決することが仕事ではなく、相手企業の経営者が、思考を巡らすために用いる、一種のツールのようなものだからです。

また、会社経営をめぐる問題や課題というものは、そもそも答えや解答があるものではなく、以前出した答えが、同時代において最善手だったとしても、現段階で、それが最善手になるとは限りません。

それに加えて、仮に経営相談が、相談をしている経営者や企業にとって、答えをもたらすものだったとしても、次の場面では、自ら考えなければなりません。

なぜなら、これまでであれば、解答なるものを与え続ける顧問としての、「依存させる」ビジネスモデルもありえましたが、

それでは、相談企業はいつまで経っても良くなることはありませんし、遅かれ早かれ潰れることになるからです。

そして、そうした「依存させる」ビジネスモデルを執り行っている経営コンサルタントも、長続きすることはありません。

こうした点からも、相談企業と同じ視点で同じものを見るのではなく、相談企業が相談してきている内容から、相談企業が言語化できていない影の部分を、経営相談という形を通して、映し出していく必要があると言えます。

おわりに

今回は、「商売の本質とは何か」というテーマで、考察を加えてきました。

経営は、目先のことを考えて回しながら、遠くのことを思う作業で、遠近両用メガネのような所作です。

しかも、遠近両用のメガネとは異なり、目先のことを思う作業と、遠くのことを思う作業に境界線はありません。

そうした点で考えてみると、経営相談というものは、相談して頂いた企業の、遠近両用メガネの精度を高めるのが仕事なのではなく、

相談企業がつけている遠近両用メガネそのものを、局面に応じて取り替える仕事であると言えます。