はじめに
今回のテーマは、「「も」ではなく「のみ」を売る」というテーマでお届けしていきます。
今回取り上げる「も」や「のみ」は、海藻の「藻」や工具の「のみ」ではないことは予想がつくと思います。
でも、それが一体どうして、「売る」ということと関連してくるのでしょうか。
今日はここからスタートしていきたいと思います。
「も」ではなく「のみ」を売る
海藻や工具を売るお話でないのであれば、今回のテーマは何か。
それは、助詞です。
今回お伝えしていく「も」や「のみ」は、助詞の「も」や「のみ」です。
事業を営んでいく上で、専門性とゼネラリスト(多分野広域性)は、幾度となく、この論考でもお伝えしてきました。
しかしながら、昨今の状況に限らず、今まで専門的に行ってきた事業が落ち込んでくると、
どうしても「隣の芝が青い」状況に見えてしまい、事態の打開を図るべく、異業種の業界に参入する事例が、相次いでいるのが現状です。
もちろん、事業形態や業種などを転換すること事態は、何も問題ありません。
事業継続をかけて挑むわけですから、それがその事業体の覚悟であるとも表現できます。
しかしながら、多くの場合、現在落ち込んでいる事業を畳んでから、新しい事業を立ち上げるということはないと思います。
つまり、現在コケている事業を継続しながらも、新しい事業を立ち上げることが一般的です。
そのため、事業転換を図るために、新しい事業「のみ」を執り行っていくわけではなく、現状の事業を継続しながら、新しい事業「も」、新しく行っていくことになります。
ここで問題になってくるのは、現在の事業と新しい事業の重なりです。
というのも、こういう状況の場合、必ず起きてしまうのは、二律背反的な状況だからです。
「あちら立てればこちらが立たぬ」の状況が発生してしまうとも言えます。
なぜかと言うと、新しい事業が伸びれば伸びるほど、古い事業は伸びなくなってきますし、
反対に古い事業にいつまでも固執していると、新しい事業は成り立たず、ジリ貧な状況は解消できずに、新旧共倒れのリスクがあるからです。
古い事業もだめ、新しい事業もだめならば、一体どのようにすればよいのでしょうか。
次の章では、この点について、考察を加えていきたいと思います。
「も」が起こす悲劇、「のみ」が起こす喜劇
今はあまり多くないですが、「事態の打開を図るために、どのような知識が必要であるか」と聞かれることが、しばしばありました。
端的に言えば、「今、傾いていてピンチなので、答えを教えて下さい」というやつですね。
ですが、この発想もまた、「も」の発想です。
つまり、今までやってきたことに加えて、あれ「も」これ「も」必要なのではないか、という一種の強迫観念に支配されてしまっていると言えます。
もちろん、これが事業継続が良好な状態で、「試しに」〜「も」やってみるということであるならば、経営者の脳の活性化や発想の転換、事業の裾野を広げた継続・発展などにつながって良いと思います。
しかしながら、少なくとも傾いている時の打開策として、「も」をやるのは、あまりにも危険です。
仮に、将来的に「も」を横展開させて、いろいろと手を出してみたいと考えていても、事態の打開を図る手としては、「のみ」に集中させるのが、最善手と言えます。
なぜなら、傾いている状況であるということは、好調である時以上に、リソースは限られていて、そんなに何でも力を割くことはできないからです。
ですが、こうお伝えすると、今度は「全部捨てて、一点集中すればよいのですね」と、何かにフルベット(全賭け)してしまいがちです。
少なくとも「賭け」をしてしまっては、NGですよね。
賭けて失敗したら、今度こそ退場しかねないわけですから。
では、何にフルベット(全賭け)すればよいのでしょうか。
最後にこの点についてお伝えしていき、今回のテーマを終えたいと思います。
商売の要衝にフルベット(全賭け)する
水が上から下に流れるように、商いにも商流という流れがあります。
もちろん、ここで言うところの商流は、ロジスティクスの話ではなく、工程の話です。
素材に行けば行くほど、川上となり、完成品になればなるほど川下に行きます。
そして、素材を抑えるほど、完成品を作る工程の企業にとって、その素材はなくてはならないものとなり、商売の要衝を抑えた事業運営を図ることができます。
ですが、完成品に近い事業を営んでいる方や、そもそも素材とか完成品とかがない事業をお持ちの方もいらっしゃると思います。
そうした事業の場合は、どのようにすればよいのでしょうか。
実は、一般的なビジネス論で展開される「川上・川下」理論の他に、もう一つ別の文脈が存在していると考えています。
それは、「中枢に寄せる」という文脈です。
先ほどは、商品やサービスの「素材(源流)」に着目した、商流の要衝の抑え方を紹介しましたが、
今度は、その分野における円の中心点に近づけるように、今展開されている事業展開の中で、よりコア(中枢)になっている部分を取り出して、それを事業展開の1つに加えるということです。
業界内の常識や新しい手法などは、研究されている経営者の方も多くいらっしゃいるので、そこで差異をつけようとするには無理があります。
しかしながら、だからといって、むやみに他業種他分野からの事例を、自らの事業に活かそうとすると、「拒否反応」が出てしまい、うまくいかないことも多くあります。
だからこそ、他業種他分野の「中枢」を研究することで、自らの業種に着地させても拒否反応は現れることなく、新しい風を吹かせることにつなげられると言えます。
おわりに
今回のテーマは、「「も」ではなく「のみ」を売る」というテーマでお届けしてきました。
現在営んでいる事業において、商売のスタイルや一般的な慣習などは、基本的に確立されているはずです。
そして、その分野における「真新しいこと」も、すぐに一般化してしまい、すぐに「真新しいこと」ではなくなります。
しかしながら、新しきを追うだけではなく、分野という円の中の、「中枢」を追いかけていくことで、
円の外側にいる事業体は、御社を通らざるを得ず、要衝を抑えた事業体として、今後も発展できると言えます。