はじめに

今日の記事では、ビジネスは結局のところ、顧客に対して何かを助言する仕事でもある。という話について、説明をしていこうと思います。

これをお読みの方の中には、コンサルティングやカウンセリングといった、助言をすることそのものが、お仕事の方もいらっしゃるかと思います。

一方で、多くの人は、今挙げたような、直接的に助言をすることがお仕事であることは、そう多くはないかもしれません。

しかしながら、経営者として、何か実業をされていて、従業員の方がいらっしゃったり、顧客に対して、自らが専門家として、ご助言される場合は、多々あるように見えます。

そして、提供するものが、形のある商品を扱っていても、形の無いサービスを提供するにしても、顧客と何かしらの言葉を交わします。

そのため、自らでは助言をしていないと思っていても、顧客から質問をされたことに対して、答えていれば、それは立派な助言に当たります。

なので、この記事では、「助言」ということに注目して、見ていきたいと思います。

具体的な商品があっても無くても、助言することに変わりはない理由。

無形の商品でも有形の商品でも、助言することに変わりがないのは、人間が言葉の世界に生きているからです。

どういうことかと言うと、そもそも「お茶」や「水」、「炭酸飲料」、「コーヒー」といった言葉が無ければ、ペットボトルに入っている液体は、ただの「液体」としてしか、認識することはできません。

日本でも、さまざまな地域がありますが、冬に雪の降らない地域は、「雪」を示す言葉が少ないようです。

しかしながら、雪国に行くと、雪の降らない地域に比べて、「雪」を示す言葉が多いようです。

それだけ、雪国では、「雪」というものを、細かく表現できているということです。

この例からもわかるように、「雪」を細かく分けることができるのは、細かく分けている言葉が存在しているからです。

その言葉が無ければ、「雪」は「雪」としてしか認識することができず、細かい雪も、大きな雪も重たい雪も、水分を多く含んでいる雪も、同じになってしまうのです。

全てのビジネス対話は、セールストークである。

さて、前の章では、言葉によって世界が作られていて、言葉が無いと、その存在そのものが認識ができないことについて、お伝えしてきました。

この世界観に臨場感が高まってくると、この章の題名の通り、「全てのビジネス対話は、セールストークである」という感覚も高まってきます。

ちなみに、ここでいうところの「セールストーク」は、いかにも商品を売ろうとするセールストークのことではありません。

物語を語るかのような話をして、商品が勝手に売れてしまうくらいのトークである必要があります。

間違っても、商品の苦労話や、メリットだけをただ羅列したようなアピールになってはいけません。

そのため、商品を語ることなく、自らを語ることなく、会社についても語ることなく、話を進めていくことになります。

では、いったい何を話すことになるのでしょうか。

それは、相手の知らない世界観や考え方についてです。

残念ながらと言いますか、当たり前のことでもあると思いますが、顧客は、こちらの商品の話には、全く興味がありません。

仮に、商品に興味があったとしても、少しでも安いところがあれば、こちらからではなく、安いところから買うようになります。

そのため、商品そのものや、それを売っている会社のストーリーなどでは、そこでしか買わない理由にはならないのです。

「ノマド」という言葉の本当の意味。

少し前ですが、カフェなどでPCを広げて仕事をしているスタイルを、「ノマド」という表現で書いている記事がありました。

それはそれで、確かに「ノマド」なのですが、本来の意味は少し似ているようで、実際にはだいぶ違います。

遊牧民のように、ホームを持たず、さまざまな価値を行き来する存在。それがノマドなのです。

そして、「ノマド的な思考」という点で言えば、ある答えに固定化することなく、常にあらゆる可能性を追求する。これが本来の意味するところなのです。

新語・流行語大賞が、毎年話題となりますが、これは、そもそも言葉が常に移り変わる存在であるからこそ、成立するイベントとも言えます。

仮に、一度生まれた言葉が、その後ずっと変化しないのだとすれば、そもそも新語や流行語は生まれてこないからです。

今ある日本語は、最初に日本語を生み出した人たちの言葉の子孫たちなのです。

言葉の意味は遅らされていて、同時に、違う意味に変容している。

前の章で、「ノマド」という言葉を例に説明してきましたが、言葉の性質として、「言葉の意味は他の言葉との差異で決まる」という要素があります。

例えば、よく善と悪とか、優と劣とか、できるできない、のように、二項対立にして表現することがあります。

そして、あたかも「善」が優れていて、「悪」が劣っているかのように、錯覚しがちです。

でも、実際には、言葉の間に優劣は存在しません。

そもそも「善」という事実(オリジナル)と、「善」という言葉(コピー)の間には、ずれが生じています。

どういうことかと言うと、「善」という事実(オリジナル)を認識して、「善」という言葉(コピー)を言い表すまでに、わずかではありますが、時間に差があるのです。

それから、「善」という事実(オリジナル)を、「善」という言葉(コピー)にした時点で、すでに2つは独立しているのです。

なので、両者に優劣は存在しないのです。

また、「善」という事実(オリジナル)も、誰かの言葉(コピー)です。たどっていくと、日本語を生み出した人(オリジナル)の言葉ですが、その人たちは、もうとっくにこの世界にはいません。

となると、この世界には、コピーしかないことにもなり、現在抱えている問題も、誰かの言葉(コピー)の一部であることがわかります。

おわりに。

さて、今回は、全てのビジネスは、顧客に対して「助言」をする仕事である、という視点から書いて参りました。

そして、「助言」という観点から、世界は言葉でできていて、言葉には移り変わる性質や、反転する性質、それから、言葉を生み出した人がすでに不在の、コピーの世界にいることについて、お伝えしてきました。

このように考えていくと、中程の章でお伝えした「全てのビジネス対話は、セールストークである」という話の理解も進んでくるように思います。

なぜなら、世界は言葉でできていて、言葉で表すことができなければ、存在を認識することはできないからです。