はじめに。
今回は、「モチベーション」という言葉について、考察していこうと思います。経営者の視点から見ると、どちらかというと、自身(経営者本人)の「モチベーション」というよりかは、社員の「モチベーション」が気にかかっているところだと思います。
しかしながら、その「モチベーション」という言葉によって、経営者が問題をより大きくしてしまっている側面があります。
理由は、経営者が社員に対して、その言葉を使う時に、それが「あるようでないものである」ことを認識して使う必要があるからです。
このことについて、考察していくところから始めていきましょう。
「モチベーション」という言葉を用いる。
社員の「やる気」が感じられない、「モチベーション」を保つ秘訣をお伺いしたい、そういった話が存在します。
でも、少し立ち止まるとわかる話ですが、その社員にとって、所属している会社は、自分の会社ではありません。所属しているだけで、自分が経営している会社ではないという意味です。
なので、やる気がないのは、そもそも当然の話であって、その組織のトップである経営者より、やる気があるのであれば、自分ですでに起業しているはずだからです。
そこから、一段話を進めると、そもそも「やる気」とは何なのか、という話につながってきます。
おそらく、「やる気」を持って来て下さい、と言われても、実際に持ってきて、相手に見せることができる人はいないと思います。
この話、実は結構広がりがあって、突き詰めて考えていくと、「心」とは何か。「意識」とは何か。という話にもつながっています。
あると断定して、実証することはできないが、ないと言い切ってしまうには、おかしなことになる。
そういう認識を持った上で、慎重に取り扱う必要のある言葉です。
言葉の性質によって、起こり得る間違い。
前の部分では、「モチベーション」という言葉を事例に取り上げてみましたが、これはすべての言葉に関して言えることです。
その言葉(文字)と意味は、必ずズレが生じてしまいます。
ある経営者が、「やる気」という言葉に関して認識している意味と、別の経営者が「やる気」という言葉に関して認識している意味は、似ていたとしても、似て非なるものです。
ちなみにですが、今使った「意味」というものもまた、存在しないことになります。
人間は、言葉を介してしか、世界を認識することはできないのですが、同時に、言葉によって、より世界を混迷させているとも言えます。
だからこそ、実際に会ったほうが話が伝わる、ということがあるのです。
これは、文字や言葉だけが、人間のコミュニケーションではないからこそ、起こり得ることです。
言葉によってしか認識できないけれども、同時に、言葉にしてしか、言語化できないからこそ、言葉以外の可能性を研ぎ澄ませて、情報を常に集めていると言えます。
「感じ」を漢字で伝える。
伝統芸能などでは、脈々と受け継がれている文化や技がいろいろとあります。
ですが、実際には、伝統芸能に限らず、代々受け継いでいるものもあります。
それが、前半部分でも触れた「言葉」です。
この文章は、日本語で書かれていますが、単純計算で考えても、日本の人口がざっくり1億人いるので、少なくとも、1億人が、日本語というものを継承しています。
それ以外にも、日本以外の国や地域で、日本語を日常的に使うことができる人や、今は日本に居ないけど、生まれた国が日本であり、母語が日本語という人を数えると、さらに多くの人が日本語を継承していることがわかります。
そして、これまで見てきたように、「日本語」というものが形として存在するわけではなく、日本で使われている言語周辺を、便宜的に「日本語」と呼んでいるに過ぎないということです。
実際に、学校教育で、ひらがなやカタカナ、漢字といったさまざまな日本語を学ぶわけですが、その中には、外国由来の言葉も多く混ざっています。
中には、日本語英語のように、由来となった英語圏やスペイン語圏、ポルトガル語圏などの外国語圏には無い、日本にはもともと無かったけど、もう日本にしか無いような言葉もあります。
パソコンとか、エネルギーとか、日常会話で使う用語でも、本国には無かったり、英語圏では無かったりします。
コミュニケーションとは、こちらと相手の「感じ」のすり合わせ。
さて、この文章は、「モチベーション」という言葉をきっかけにして、展開してきました。
そのうちに、言葉というものを改めてとらえて、言葉の取り扱いについて、お伝えしてきました。
改めて言葉に着目するのは、言葉を用いてしか世界を認識できないということはもちろん、社員とコミュニケーションを取る際の、言葉の微妙な「感じ」について、お伝えしようと考えたからです。
お互いに決して分かり合うことのない世界で、人は生活をしています。しかしながら、そのような世界の中で、どのようにして、近づけるのかを試されているとも言えます。
同じにすることはできないけれども、近くすることはできて、それが結局のところ、言葉によってしかできないのであれば、それをするよりほかありません。
そして、近づこうと歩み寄ろうとする人たちだけが、理解できそうになったり、誤解を招いたりしながらも、より近づいていく可能性があると言えます。
同じ言葉であっても、同じ文章であっても、書いた本人と違うように思う人もいるし、同じように思う人もいます。
それぞれの人の「感じ」方という、言葉の意味合いの細やかな部分や、言葉にしにくいところをすり合わせていくことが、社員とのコミュニケーションにつながっていくと見えます。
おわりに。
今回は、「モチベーション」という言葉を頼りに、話を進めてきました。
そして、同時に、それがあるようでないようなものとして、慎重に扱いながらも、最終的には、こちらと相手のそれぞれの「感じ」を知り、2つの「感じ」を言葉と、言葉以外の全面ですり合わせていくというお話でした。
「感じ」というと、具体的なようでいて、抽象的な言葉です。
一見すると曖昧で、わかりにくい言葉を選んだのは、ある人とある人が、コミュニケーションを取る時に、ズレ合う中に、時々近づいてわかったような感覚になるところを、表現したかったからです。
言葉の細かな部分を、丁寧に見ていきながら、相手や自らの「感じ」を感じ取って参りましょう。
経営者のその「感じ」を感じ取ろうとする姿勢は、社員の人のみならず、関わっている企業や相手先の担当者など、御社と関わるすべての関係者に派生していくからです。