はじめに

すっかり春めいてきましたが、皆様はいかがお過ごしでしょうか。

今回は、多くの会社で、新入社員が入ってきたり、ベテランの社員が抜けたりして、会社も何かと慌ただしい季節ということで、知識と経験をテーマにお伝えしていこうと思います。

これをお読み頂いている方は、知識と経験は、どちらが大切だと思っていますか。

この辺りから、話を進めて参りましょう。

経験が重要とする人の視点。

今、会社を経営されている方でも、新人の頃というものがあったと思います。

上司や先輩から、たくさんのことを学び、そこで偉くなった方もいれば、自分が属していた会社から独立して、自らの会社を創り、現在に至る方もいらっしゃるかと思います。

かつてであれば、「3年は続けないとその仕事について分からない」とか「まずは経験。座っていないで現場を回れ」などなど、様々な会社の常識を目の当たりにします。

でも、現在では、そうした上司や先輩を飛び越えて、経営者として、会社の代表として、ご活躍されています。

経験があったはずの上司や先輩は、多くの場合、その会社か別の会社で、同じように社員として、年齢なりの役職が会社から与えられていると思います。

でも、経営者になったり、取締役の役員として、活躍されている人は、そう多くはないかもしれません。

むしろ、関わった先輩・上司が軒並み、現在の会社経営者仲間だったり、どこかの会社の執行役員クラスであることは、ほとんどないと言えます。

だとすると、現在経営者であるあなたと、そのまま社員として働いている、先を行っていたはずの先輩・上司は、どこが違ったのでしょうか。

ここまでくるとお気づきかもしれないですが、経験だけが、現在の立場を決めているわけではないことが分かります。

もし経験が立場を左右するのであれば、日本は高齢化するに伴い、賢くなって進化しているはずですから。

ちなみに、経営者が上とか、社員だから下という話ではありません。同様に、どちらかが優れていたり、劣っていたりするという話でもありません。

そもそも1円ももらわずに、経済活動や貢献活動をしているならまだしも、社会に対する貢献度合いに応じて、経営者と社員でもらえる金額に差がついているはずなので、そこでバランスが取れています。

あくまでも、ビジネス上において、何が両者の差を分けているのか、という視点なので、その点を念頭におきつつ、話を読み進めて頂くことができればと思います。

では、どこに違いがあったのか、反対側の側面を見て参りましょう。

知識が重要とする人の視点。

では、知識から見た視点を考えていきましょう。

経験を補うのは、知識であるという視点です。

確かに、経験していない部分を、読書したり、勉強し直したりすることで、補うことができる部分も存在します。

もう学ぶことのできない出来事や、専門分野の基礎知識などですね。

例えば、前者であれば、亡くなってしまった方の著書を読んだり、歴史を紐解いたりする場合です。

会社経営をするにあたって、孫氏やクラウゼヴィッツといった「戦い」という側面から、その考え方を会社経営に生かしているという方も、いらっしゃるかと思います。

そうした方々であれば、一般的な書店で売られている簡単そうな孫氏やクラウゼヴィッツの本ではなく、大型書店にしかないような原典や原典の翻訳の古い本を、お読みになった方も多いのではないでしょうか。

少なくとも、原典か原典に準じる翻訳を読まなければ、彼らが意図した思考は手に入りません。

理由は、簡単な翻訳や分かりやすくまとめられる過程で、重要な部分もまた、分かりやすくまとめられて、著者の思考の本質が抜け落ちてしまうからです。

また、もし仮に簡単な翻訳や他の本の焼き直しで、重要な気づきを得られるとしたら、それはすでに、読んでいる本ではなく、思考している本人に、鍵となる部分が隠されていることになります。

そうなると、知識の面においても決定打を欠くことになり、経験と知識のどちらが大切か、という考え方そのものが崩壊します。

どちらも、それぞれに不足している部分が残されているからです。

それでは、その点について、次に見ていくことに致しましょう。

経験が重要とする人にも、知識が重要とする人にも不足している点。

経験と知識のどちらが大切かという問いに、残されている部分とは何か。

ここまでの考察で、経験が大切という側面からは、経験が大切ならば、「かつて先輩や上司であった人たちは、なぜ自らと異なり会社で偉くなるか、経営者として独立していないか」という点がありました。

一方、知識が必要という側面であれば、読書を例に、「簡単な本で気がつける人と、難しい原典でも気がつけない人の違い」が説明できないことになり、やはり何かが不足していることが分かりました。

さて、では、経験と知識のどちらが大切か、という問いには、何が足りていないのでしょうか。

それは「視点」です。

ここまで見てきた通り、同じ経験でも、気がつく人と、気がつかない人がいます。

同様に、同じ知識でも、気がつく人と、気がつかない人がいます。

知識と経験に関して言えば、現在経営者としてご活躍なさっている方も、今もなお社員として生計を立てている方も、同じです。

もし、何か特別な経験が必要なのであれば、その経験をするために多くのお金が動くはずだからです。

でも、人間国宝クラスになれば別ですが、ビジネス上においては、どの人も同じような知識に触れて、同じような経験をし、同じように暮らしているわけです。

だから、特別な経験をしているはずの留学経験者や、海外で働いていた経験があっても、現在では振るわない場合もあれば、日本どころか、自分の住んでいる地域周辺くらいしか行ったことがなく、ほとんど1ヶ所に過ごしてきた場合でも、うまくいくことがあると言えます。

おわりに

新入社員が何十人抜きで、執行役員になったり、新米経営者が、古参の経営者たちを抑え、その地域の有力者になったりすることがある春です。

そして、追い抜く人がいるということは、その何十倍も追い抜かれる人がいることも事実です。

でも、そのどちらにも側にも立てるのが、唯一、経営者であると言えます。

経験として、追い抜く側も追い抜かれる側も見えていて、知識としても、両者の側を知っているからです。

そうした経験と知識を携えた上で、さらに、両者を見つめる視点を得ているからこそ、現在、経営者として、その知見を生かし、活躍されていると言えます。